建設業許可の取得・維持には「専任技術者」の配置が欠かせません。しかし、その要件や役割を誤解しているケースも少なくありません。本記事では、専任技術者の正しい知識を、初心者にもわかりやすく徹底解説します。
専任技術者の役割とは?
建設業許可に不可欠な「営業所の技術的責任者」
建設業を営むためには、営業所ごとに「専任技術者」を配置することが法律で義務付けられています(建設業法第7条第2号・第15条第2号)。専任技術者は、各営業所に常勤し、建設工事に関する専門的な知識と経験をもって、技術面からの体制整備を担う責任ある立場です。
一般的に「技術者」と聞くと、現場で作業や監督を行う人をイメージしがちですが、専任技術者の本来の役割はあくまで営業所単位の技術的管理責任者であり、現場で直接指導・監督を行う主任技術者・監理技術者とは職務が異なります。
主任技術者・監理技術者との違い
現場と営業所、それぞれの技術責任を分担
区分 | 配置場所 | 主な役割 |
---|---|---|
専任技術者 | 営業所 | 許可業種に関する技術的能力の証明と常勤体制の確保 |
主任技術者 | 工事現場 | 一般建設業での現場管理(施工計画、指導・監督) |
監理技術者 | 大規模な現場 | 特定建設業での技術管理(主任技術者の統括、契約管理) |
つまり、専任技術者は「営業所ごとに配置される常勤の技術責任者」であり、現場に配置される主任技術者や監理技術者とは配置先も業務内容も別物です。
専任技術者になるための3つの要件パターン
1.学歴+実務経験で要件を満たす
以下のように、所定の学科を卒業し、一定年数の実務経験があれば要件を満たします。
- 大学・高専(指定学科)卒業+3年以上の実務経験
- 専門学校(指定学科)卒業+5年以上の実務経験
2.資格によって直接要件を満たす
以下のような国家資格を取得していれば、それだけで専任技術者になれる場合があります。
- 一級建築士、一級施工管理技士(各業種対応)
- 二級建築士、二級施工管理技士(※一部業種に限る)
ただし、資格の種類と許可業種の適合が必要であり、二級資格では実務経験が必要となるケースもあります。
3. 実務経験のみで要件を満たす
学歴・資格がない場合でも、10年以上の実務経験があれば専任技術者になれます。
その実務内容は、申請する業種と一致している必要があります。
例えば、「とび・土工工事業」の許可を申請する場合は、10年以上の同種工事に関わった経験が求められます。
実務経験を証明するには?
経験証明書はどうやって取得するのか
勤務先から発行される「実務経験証明書」が基本です。内容には以下が含まれます:
- 在籍期間
- 担当工事の種類・工事名
- 業務内容(施工管理・現場監督など)
代表者印が必要となるため、社長や役員の協力が不可欠です。
証明が困難な場合の対処法
勤務先が倒産・閉鎖などで証明書が取れない場合は、以下の客観的資料を組み合わせて提出します。
- 工事契約書・注文書・請求書
- 施工体制台帳・安全書類
- 工事写真・納品書・発注書など
判断は自治体によるため、事前に建設事務所に相談するのが無難です。
常勤性と兼任制限:専任技術者の注意点
「常勤」とは?
- 毎日その営業所に出勤している
- 他の法人や事業所に雇用されていない
- 社会保険・雇用保険でその会社に加入している
非常勤・短時間勤務・他社勤務などは常勤とは認められません。
兼任できるのは例外的なケースのみ
原則として、1人の技術者が複数の営業所の専任技術者になることはできません。
同一法人内であっても、拠点間の距離が近く、同一業種、技術管理に支障がないと判断された場合に限り、例外的に認められるケースがあります。
ただし、事前に建設事務所の了承を得る必要があります。
専任技術者が退職・異動したときの対応
- 14日以内に変更届出が必要(建設業法第20条)
- 後任の専任技術者が見つからない場合でも、無資格状態での営業は違法
- 状況によっては、許可業種の一時的な返上も検討が必要
専任技術者の不在は重いリスクを伴う
専任技術者の不在や不適格な配置は、以下のような行政処分の対象となります。
- 建設業許可の取消しまたは営業停止命令
- 公共工事の入札停止
- 刑事罰(6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金)
特に常勤性の確認(社会保険・雇用保険の未加入や他社勤務など)は厳しくチェックされます。
許可制度の改正にも注意を
建設業法は、社会情勢や建設業の実態に応じて定期的に改正されます。
専任技術者の資格要件や該当資格も見直されることがあるため、定期的に最新情報をチェックすることが必要です。
国交省や都道府県の建設業課のホームページ、または行政書士に相談しておくと安心です。
まとめ:適切な専任技術者の配置が建設業の信用を守る
専任技術者は、建設業許可の取得・維持だけでなく、企業としての信頼性の証明でもあります。
許可業種と一致した経験・資格を備えた人材を、営業所ごとに常勤で配置することが、法令順守と健全な経営の土台です。
少しでも不安があれば、建設業許可に精通した専門家(行政書士)へ相談することをおすすめします。適切な体制整備を行い、健全な建設業経営を築いていきましょう。