建設業許可を取ろうとすると、まず最初に「大臣許可」と「知事許可」という二つの区分が目に入ります。名前だけを見ると、大臣許可は全国で活動できて、知事許可はその都道府県内だけでしか工事できないような印象を受けるかもしれません。しかし実は、どちらの許可を取っても全国で工事を請け負うことができます。この点を正しく理解しておくことが、最初の一歩です。
大臣許可と知事許可の基本的な違い
両者の違いはシンプルで、営業所がどこにあるかで決まります。営業所が二つ以上の都道府県にまたがっている場合は大臣許可が必要で、営業所が一つの都道府県のみにある場合は知事許可を取ります。例えば、本社が東京都にあり、大阪府にも支店がある場合は大臣許可、本社も支店も埼玉県内にある場合は知事許可という具合です。
審査で求められる要件は法律で共通に定められており、大臣許可だから特別に厳しくなるわけではありません。ただし、提出先や添付書類の一部に違いが出ることがあります。大臣許可は主たる営業所を管轄する国土交通省の地方整備局等へ、知事許可は都道府県庁へ申請します。最近では電子申請(JCIP)も利用できるため、事前に管轄庁の最新手引きを確認すると安心です。
許可を取るための共通要件
大臣許可でも知事許可でも、満たすべき条件は同じです。経営業務の管理責任者がいること、各営業所に専任技術者が配置されていること、一定の財産的基礎があること、欠格要件に該当しないこと。この四つが柱になります。
経営業務の管理責任者は、建設業の経営経験を一定年数以上持つ人を指します。専任技術者は、その営業所で常勤し、工事に必要な専門資格や実務経験を有する人のことです。財産的基礎は、一般建設業許可であれば自己資本が500万円以上あるか、同額以上の資金調達能力があるか、または直近5年間継続して許可を受けていることのいずれかを満たせば足ります。特定建設業許可では条件がより厳しく、資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上、流動比率75%以上、さらに欠損額が資本金の20%以内であることの全てを満たす必要があります。
特定建設業許可と一般建設業許可の違い
特定建設業許可は、元請として受注した1件の工事で、下請契約の合計額が5,000万円以上(建築一式工事の場合は8,000万円以上、いずれも税込)となる場合に必要です。これは2025年2月1日の法改正で引き上げられた最新の金額です。それ未満の場合や下請に出さない場合は一般建設業許可で足ります。
特定建設業許可を取るための専任技術者は、1級建築士や1級施工管理技士などの高度な資格、または一定の指導監督的実務経験が必要になります。一般建設業許可の専任技術者要件よりもハードルが高いため、早めに人材要件を確認し、準備しておくことが大切です。
許可取得後に必要な手続きと注意点
許可を取ったら終わりではありません。事業年度が終了したら4か月以内に、決算変更届(事業年度終了届)を所管庁へ提出します。株式会社の場合は会社法上の事業報告書なども添付します。大臣許可なら地方整備局、知事許可なら都道府県庁が提出先です。
また、役員の変更や商号の変更、営業所の移転、経営業務の管理責任者や専任技術者の交代など、許可内容に変更があった場合には変更届が必要です。提出期限は変更内容によって異なり、経営業務の管理責任者や専任技術者の変更は14日以内、商号や役員変更は30日以内と決められています。うっかり期限を過ぎると建設業法違反になるおそれがあるため、注意が必要です。
さらに、建設業法だけでなく、労働基準法や労働安全衛生法、建築基準法、消防法などの関連法令も遵守する義務があります。現場の安全管理、労務管理、契約内容の適正化など、日常的に法令遵守の意識を持って業務を行うことが、顧客や発注者からの信頼につながります。
まとめ
大臣許可と知事許可の違いは営業所の所在都道府県数だけであり、どちらの許可を取っても全国で工事を行うことができます。許可要件は共通ですが、特定建設業許可を取る場合は金額基準や人材要件が一般よりも厳しくなります。取得後も、決算変更届や変更届の期限を守り、関係法令を遵守しながら事業を運営することが欠かせません。
初めて許可申請をする場合は、制度や用語が複雑に感じられるかもしれませんが、一つずつ整理して理解すれば決して難しいものではありません。不安があるときは、行政書士などの専門家に相談することで、スムーズに手続きを進めることができます。許可取得は、公共工事への参加や取引先からの信用向上など、事業の成長に大きく寄与する重要なステップです。