建設業許可の取得は、建設業を営む上で避けて通れない重要なステップです。しかし、初めて申請に取り組む方にとっては、複雑な書類の山に戸惑うことも少なくありません。
本マニュアルでは、最新の法制度に準拠した建設業許可申請の手順、書類の記入方法、注意点を、実務目線でわかりやすく解説します。許可取得を目指す経営者や実務担当者の方の参考となるよう、記入例や豆知識も織り交ぜながら丁寧に構成しています。
1.建設業許可とは?申請の意義と必要性
建設業許可は、一定規模以上の工事を請け負うために必要な法的手続きです。具体的には以下のようなケースで許可が必要になります。
許可が必要となる工事の基準
ちょっとややこしく見える許可の基準も、ポイントを押さえれば理解は簡単です。
- 一件の工事の請負金額が税込500万円以上の場合(建築一式工事は1,500万円以上)
- 木造住宅の工事で延べ面積が150㎡を超える場合
これらに該当する工事を請け負うには、建設業法に基づく「建設業許可」を取得する必要があります。
許可の種類:大臣許可と知事許可
- 知事許可:営業所が1つの都道府県内にある場合
- 大臣許可:営業所が複数の都道府県にまたがる場合
※「営業所」とは、契約締結などの実務を行う拠点を指します。単なる工事現場は含まれません。
許可を取得するメリット
- 公共工事の入札に参加できる
- 顧客からの信頼性が向上する
- 違法営業による罰則リスクを回避できる
許可取得は、事業の成長と信頼の土台となる重要なステップなのです。
2.建設業許可申請書の種類と入手方法
申請の区分
申請は状況に応じて以下の3つに分類されます。
- 新規申請:初めて許可を取得する場合
- 更新申請:許可の有効期限(5年間)を延長する場合
- 変更届:会社の情報や業種に変更があった場合
申請書の入手方法
- 各都道府県の建設業許可窓口
- 都道府県の公式ホームページ(最新様式の確認が必須)
※様式は全国共通(国土交通省令)ですが、添付書類や提出方法に県独自の差異があるため、必ず申請先の要領を確認しましょう。
3.申請の流れと準備書類
申請には段取りが大切です。スムーズに進めるための流れと書類のポイントを押さえましょう。
一般的な申請の流れ
- 必要書類の収集・整理
- 申請書の作成
- 管轄窓口への提出
- 審査・補正対応
- 許可の通知書を受領
よく求められる添付書類(新規申請の場合)
以下は典型的に求められる書類です(業種や事業形態によって異なる場合あり)。
- 経営業務の管理責任者に関する書類
- 専任技術者に関する資格証明・実務証明書
- 財産的基礎に関する残高証明書や財務諸表
- 登記簿謄本(法人)または住民票(個人)
- 営業所の写真や賃貸契約書(必要に応じて)
電子申請について
一部都道府県では、GビズIDを活用した電子申請が可能です。ただし、まだ対応していない地域も多いため、各自治体で事前確認を行いましょう。
申請は「準備8割」と言われるほど下準備が肝心です。提出前のチェックリストを活用し、万全を期して臨みましょう。
4.申請書(様式第一号)の具体的な記入例
申請書の書き方は、細部まで正確に記入することが重要です。ここでは代表的な記入欄を例示しながら解説します。
申請者情報欄
- 法人名・代表者名(または個人名)
- 住所(登記簿または住民票に記載されたものと一致させる)
- 電話番号(日中に連絡が取れる番号)
よくあるミス:
- フリガナの誤記
- 番地・部屋番号の記入漏れ
営業所情報欄
- 所在地(営業所の登記簿謄本に基づく正確な住所)
- 営業所の電話番号
- 法人番号(法人のみ記載)
- 市区町村コード(総務省HPより取得)
許可業種・許可番号欄
- 29の業種区分から該当業種を明記(例:土木一式工事、電気工事など)
- 既に取得済みの業種がある場合は、許可番号と併せて記載
- 業種追加・変更の場合は「許可換え」のチェックも忘れずに
書類の正確性が、審査のスピードと結果を大きく左右します。提出前には、必ず複数人でのダブルチェックを行いましょう。
5.主要な添付書類の記載ポイント
経営業務の管理責任者に関する書類
- 経営経験を示す登記簿謄本、確定申告書等
- 常勤性の証明(健康保険被保険者証等)
※2020年の法改正で「補佐経験」等も要件に含まれるようになりました。形式的な役職だけでなく、実務経験の実証が求められます。
専任技術者に関する書類
- 国家資格の合格証、登録証
- 実務経験証明書(発注者名・工事内容・期間を具体的に記載)
- 工事契約書・請求書・写真など補足資料も有効
財産的基礎に関する書類
- 預金残高証明書(500万円以上が目安)
- 財務諸表(直近事業年度、税理士の確認印が望ましい)
※個人事業主の場合は、所得税確定申告書(控除後所得金額)でも代替可能なケースがあります。
各書類の有効期限や発行日には特に注意が必要です。不備があると補正対応に追われることになります。
6.申請後の流れと注意点
許可が下りるまでの期間
- 通常:1~2か月程度(都道府県により異なる)
- 不備があれば補正指示書が送付される
連絡先には常時連絡が取れる電話番号を記載しておきましょう。補正の放置は申請却下のリスクになります。
許可通知書の管理
- 許可通知書は公共工事の入札や金融機関とのやり取りで提示を求められる重要書類です
- 紛失時には再発行申請が必要(手数料がかかる場合あり)
許可の更新と変更届
- 更新申請は、許可満了日の30日前までに提出
- 以下の変更があった場合は、変更届を「30日以内」に提出
- 代表者変更
- 営業所の所在地変更
- 資本金の変更
- 役員の追加・退任 など
変更届の未提出は建設業法違反となり、営業停止や許可取消などの行政処分を受ける恐れがあります。早め早めの対応が信頼と安全を守ります。
【まとめ】確実な建設業許可取得のために
申請書の記入と添付書類の準備には、正確性と丁寧さが求められます。少しの記載ミスが審査の遅延や申請却下につながるため、以下の点を常に意識しましょう。
✅ 成功のポイントまとめ
- 法制度や様式の「最新版」を確認する
- 申請書は控えを必ず保存し、ダブルチェックする
- 各書類の「整合性」と「証明性」を重視する
- 疑問点は自治体の窓口や行政書士に早めに相談する
何よりも、「適切に整えられた申請書類」は、そのまま御社の信頼と誠実さの証となります。スムーズな許可取得は、ビジネス拡大の第一歩です。