公共工事の受注を目指す建設業者にとって、経営事項審査(経審)は避けて通れないステップです。その中でも「W評点(社会性等)」は、企業の法令遵守体制、労働環境、防災・地域貢献などの社会的責任に関する評価指標として、発注者からの信頼を得るために欠かせません。
この記事では、W1~W10の全評価項目を網羅的に解説し、それぞれの対策と実務のポイントを具体的にご紹介します。
W評点とは?|P点を構成する社会性評価の指標
経営事項審査の総合評定値(P点)は、以下の4つの指標の合計で構成されます:
- X評点:経営規模
- Y評点:経営状況
- Z評点:技術力
- W評点:社会性等(加点要素)
W評点はP点の中で占める点数割合は大きくありませんが、他の項目では補えない社会的信頼性や企業文化を示す重要な指標です。
W評点の評価項目一覧(W1~W10)
W1:担い手の育成・確保
若年技術者の採用・教育、資格取得支援、ワークライフバランスの推進が評価されます。OJT制度の充実や、フレックスタイム制度の導入も加点対象です。
W2:法令遵守の状況
建設業法違反の有無、社会保険未加入の是正状況などが対象。コンプライアンス体制の整備が不可欠です。
W3:防災活動への貢献
地方自治体との防災協定の締結、防災訓練参加実績などが評価されます。地域密着型企業の姿勢が問われます。
W4:社会保険の加入状況
雇用保険・健康保険・厚生年金保険への加入状況が加点の対象。未加入事業所は加点不可となるため要注意です。
W5:経理の状況
建設業経理士1級・2級の保有者数、専任の経理責任者の有無などが評価基準。正確な経理体制を整備しましょう。
W6:建設業退職金共済制度(建退共)への加入
掛金納付状況や加入年数が評価されます。未加入の場合は減点となる可能性があるため、早めの加入を推奨します。
W7:法定外労災補償制度への加入状況
上乗せ労災や民間の労災保険制度への加入実績が評価されます。従業員の福利厚生を示す項目です。
W8:ISO等のマネジメントシステム認証
ISO9001(品質)、ISO14001(環境)、ISO45001(労働安全衛生)等の取得状況が評価されます。更新継続が重要です。
W9:健康診断の実施状況
法定健康診断の実施率が評価されます。全従業員への年1回以上の実施が望まれます。
W10:地域貢献活動
地域清掃活動や地域イベント協力など、ボランティア活動への参加実績が対象。CSR活動としての可視化が評価されます。
W評点アップのための具体的対策
W評点は、日々の経営姿勢や社会的な取り組みの積み重ねによって向上します。特別なことをいきなり始める必要はありません。まずは身近なことから取り組み、ひとつずつ「できていること」を増やしていくことが大切です。以下に、各評価項目に共通するW評点アップのための実践的な対策を、初心者にもわかりやすく整理しました。
1. 働きやすい職場づくりから始めよう(W1、W4、W7、W9)
● やるべきこと
- 若い技術者の育成や定着に力を入れる(OJT研修、外部研修、資格取得支援)
- 社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)にきちんと加入する
- 労災保険だけでなく、民間の労災上乗せ保険にも入る
- 社員全員に年1回の健康診断を行う
● 実務アドバイス
- 研修制度がない場合でも、簡単なマニュアルを作成したり、先輩が教える仕組みをつくるだけでも加点対象になります。
- 社会保険に加入していないと、W4では加点されず、W2(法令遵守)でも減点される恐れがあります。
- 健康診断は、社員数が少ない会社でも、最寄りのクリニックでまとめて受診することが可能です。
2. 地域の一員として貢献しよう(W3、W10)
● やるべきこと
- 地元の防災訓練に参加する
- 地方自治体と「防災協定(災害時の協力協定)」を締結する
- 地域清掃やイベントに積極的に参加する
● 実務アドバイス
- 市区町村の役場や消防署に「防災協定を結びたい」と相談してみましょう。締結だけで加点になります。
- 地域の清掃活動に年1回でも参加した記録(写真や案内チラシなど)を残すことで、W10の評価につながります。
- 「やっているけど申請に反映していない」ケースが多いので、証拠となる書類(写真・参加名簿)をきちんと保管しておきましょう。
3. 経理やお金の管理をしっかりしよう(W5、W6)
● やるべきこと
- 建設業経理士の資格を持つ社員を増やす
- 会計ソフトや税理士による外部チェック体制を整える
- 建設業退職金共済(建退共)に加入し、掛金をきちんと納める
● 実務アドバイス
- 経理担当者に「建設業経理士2級」の取得をすすめると、W5で加点されます。試験対策講座もあります。
- 税理士や会計士を顧問にしている場合、その旨を申請書に記載することを忘れずに。
- 建退共は厚生労働省が監督する制度で、1人でも加入できます。申請書類も比較的簡単です。
4. ISOなどの認証にチャレンジしよう(W8)
● やるべきこと
- ISO9001(品質管理)やISO14001(環境管理)などの認証を取得する
● 実務アドバイス
- いきなり全社での認証はハードルが高く感じるかもしれませんが、コンサルタント会社が取得をサポートしてくれる場合も多く、補助金が使えることもあります。
- ISOは更新も重要です。取得してから数年放置すると、評価されないこともあるのでご注意を。
5. 法令を守ることが最大の防御(W2)
● やるべきこと
- 建設業法違反や下請法違反を起こさない
- 社会保険未加入状態を放置しない
- 従業員とのトラブルを回避し、労働環境を整備する
● 実務アドバイス
- 万が一違反歴がある場合でも、改善報告を出しているかどうかで評価が変わります。
- 社会保険の未加入者がいた場合、速やかに是正し、その対応を記録として残すことが重要です。
6. 自社の取り組みを「証拠として残す」習慣をつけよう
W評点の評価は、実績があっても「証明できなければ加点されない」のが特徴です。以下のような証拠保管が非常に大切です。
- 防災訓練の写真や案内状
- 清掃活動の参加名簿
- 研修実施記録や参加証
- 資格取得証明書のコピー
- 加入契約書(建退共・上乗せ労災)など
【補足コメント】
💡 「やってないから申請できない」ではなく、「やっているけど申請してない」がW評点の大きな機会損失です。
少しずつでも取り組めば、確実に成果が見える
W評点は、一朝一夕では上がりませんが、1つ1つの地道な取り組みが将来の入札機会や信用力につながる確かな評価指標です。最初は1項目でも良いので、取り組みを始め、証拠を残し、申請につなげていきましょう。
経営事項審査に向けた申請準備の注意点
経営事項審査(通称:経審)をスムーズに受けるためには、準備段階での「書類の整え方」「記載方法」「提出方法」がとても重要です。初心者の方でも安心して取り組めるよう、実務でよくある疑問やつまずきポイントを交えながら、わかりやすくご案内します。
1. 必要書類はどこでもらう?何を揃える?
● 主な必要書類と入手先
書類名 | 内容 | 入手方法 |
---|---|---|
経営状況分析申請書 | 財務データをもとにしたY評点用 | 登録経営状況分析機関(全国約10社)から |
経営規模等評価申請書 | X・Z・W評点用 | 都道府県の建設業課または地方整備局 |
工事経歴書 | 過去1年間の完成工事の内容 | 独自作成、様式あり |
技術職員名簿 | 技術者の資格や経験を記載 | 様式に沿って作成 |
各種添付書類 | 財務諸表、納税証明書、保険加入証明など | 自社保管 or 官公署から取得 |
● 実務アドバイス
- まずは、「経審をいつ受けたいか?」を決めてから、逆算して2~3か月前には準備を始めましょう。
- 書類の様式や記入例は、都道府県庁・地方整備局の建設業課のホームページに載っていることが多いので、まずはそこを確認してください。
2. 記載ミスを防ぐための基本チェックポイント
申請書類は、1カ所の記載ミスや記載漏れで「受付不可」や「減点評価」になることもあります。以下のチェックを忘れずに!
● 記載のコツと注意点
- 申請書は必ず最新版の様式を使いましょう(古い様式だと受理されないことがあります)
- 数字の記載は**半角(全角混在NG)**で統一
- 工事経歴書の完成工事高と、財務諸表の金額が一致しているか確認
- 技術者の資格番号や取得年月が誤記されやすいポイントなので注意!
● 実務アドバイス
- 1人で全部確認するのは危険です。必ず「ダブルチェック(複数人確認)」をしましょう。
- 記載に不安がある場合は、行政書士や建設業専門の経審コンサルに早めに相談するのも有効です。
3. 添付書類は「あるべき場所に・正しい形で」揃えよう
経審の申請では、「記入した内容を裏付ける証拠書類」が必要です。以下のような資料を準備し、正しい順番・正しい形式で添付しましょう。
● 主な添付書類例
- 直近の決算書一式(貸借対照表・損益計算書)
- 納税証明書(法人税・消費税)
- 社会保険加入証明
- 建設業経理士の資格証コピー
- 建退共加入証明、退職金掛金の納付実績書
- 防災協定書(写し)や訓練実績写真
- 健康診断の実施記録
● 実務アドバイス
- 書類の抜け漏れを防ぐために、「提出書類チェックリスト」を自作するのがおすすめです。
- 提出後に書類の差し替えができない場合があるので、事前にコピーをとってファイリングしておくと安心です。
4. 提出方法・提出期限に要注意!
経審の申請には「提出期限を守る」ことが非常に重要です。期限を過ぎると、希望する入札に間に合わない可能性があります。
● 提出先と方法
種類 | 提出先 | 提出方法 |
---|---|---|
経営状況分析申請書 | 登録経営状況分析機関 | 郵送またはWebフォーム(機関による) |
経営規模等評価申請書 | 都道府県庁や地方整備局 | 原則:窓口提出/一部:郵送または電子申請可 |
● 実務アドバイス
- 郵送で提出する場合は、「レターパックプラス」や「簡易書留」など追跡付きの方法を利用してください。
- 申請機関によっては「完全予約制」になっている場合があります。事前に電話予約が必要か確認しておきましょう。
- 忙しい時期(年度末など)は窓口が混み合うので、余裕を持ったスケジュールで準備開始を!
5. 迷ったら“手引き”と“窓口”を活用しよう
各都道府県や整備局では、経審申請のための「申請の手引き」を無料で配布しています。これを読み込むだけでも、申請書類の構成や記入例がよくわかります。
また、行政窓口では電話相談・事前相談にも応じてくれることが多いので、不明点がある場合は遠慮せずに問い合わせることが大切です。
💡補足:提出書類は経審の“通信簿”
経営事項審査は、提出された書類だけで評価が行われます。つまり、提出書類があなたの会社の「成績表」そのものになります。
・丁寧に記載されているか?
・必要な添付資料が漏れなくあるか?
・ウソやごまかしはないか?
これらが審査官に伝われば、W評点にもつながり、入札先からの信頼度もアップします。
📝 書類の整備=会社の整備。早めの準備が成功のカギ!
経営事項審査は、書類の準備・記載・提出をしっかりやれば、初心者でも十分に対応できます。むしろ、今の会社の経営状況や制度整備を見直す絶好の機会と捉えるべきです。
はじめての申請でも焦らず、今回のチェックポイントをひとつずつクリアして、信頼と実績ある企業としてしっかりとアピールしていきましょう。
まとめ:W評点は企業文化の指標であり成長戦略の一部
W評点は単なる数値ではなく、「社会的信頼」「人材重視」「地域との連携」といった企業の価値観そのものを表すものです。この指標を向上させる取り組みは、入札競争力の強化だけでなく、企業ブランドの向上や持続的成長にもつながります。
今日からできる改善に取り組み、社会に誇れる建設業者として歩みを進めましょう。