公共工事を受注したい建設業者にとって、避けては通れない「経営事項審査(経審)」。本記事では、経審制度の基本構造から、評点の仕組み、申請の注意点、さらには最新の制度改正まで、実務に役立つ情報を丁寧に解説します。公共工事の入札参加を検討している方はもちろん、自社の経営改善に活かしたい方も必見です。
経営事項審査(経審)制度とは?
公共工事に参加するための重要なステップ
経審とは、国や地方自治体が発注する公共工事の入札に参加しようとする建設業者に対し、その経営状況や技術力などを点数で評価する制度です。発注者が業者の選定を公平かつ客観的に行うための材料として使われます。
経審を受けることは、公共工事に参加する際の前提条件となっている場合が多く、結果として得られる「総合評定値(P評点)」が、入札参加資格の審査で重要視されます。
経審の対象となる建設業者とは?
建設業法に基づいて許可を受けている事業者のうち、公共工事の入札に参加を希望する場合、経審の受審が必要となります。
ただし、以下のような「軽微な工事」のみを行う場合は、経審の義務は原則としてありません。
- 建築一式工事:1件の請負金額が1,500万円未満、または延べ面積150㎡未満の木造住宅工事
- その他の工事:1件の請負金額が500万円未満
とはいえ、自治体によっては小規模な案件であっても経審結果の提出を求める場合がありますので、入札を検討する前に発注者の要件を確認することが大切です。
経審の有効期間と更新のタイミング
経審の結果は永続的に有効ではありません。評価の基準となる「決算日(事業年度終了日)」から起算して【1年7ヶ月間】が有効期間とされています。
有効期間を過ぎると、経審の結果は無効となり、入札に参加できなくなるおそれがあります。そのため、公共工事に継続して参加するためには、有効期間が切れる前にあらためて経審を受け直す必要があります。
更新申請の準備は、有効期限の約3か月前から可能です。決算後は速やかに準備を進め、提出期限を逃さないようスケジュール管理を徹底しましょう。
経審の評価項目とその仕組み
経審では、以下の4つの項目について評点(X~W)が算出され、合算して総合評定値(P評点)が決定されます。
① 経営規模(X評点)
- 【主な評価項目】:完成工事高、自己資本額
- 【ポイント】:規模が大きいほど高得点となる
- 【対策】:直近2年または3年の完成工事高を増加させる、内部留保を増やすなど
② 経営状況(Y評点)
- 【主な評価項目】:自己資本比率、負債回転期間、利益剰余金、流動比率など
- 【ポイント】:財務の健全性・収益性を総合的に評価
- 【対策】:利益の確保、借入金の圧縮、遊休資産の売却などで体質強化を図る
③ 技術的能力(Z評点)
- 【主な評価項目】:専任技術者の配置状況、資格保有状況(1級施工管理技士等)
- 【ポイント】:技術者数と資格の有無が鍵
- 【対策】:資格取得支援制度の導入、社内研修の充実、外部講習の活用
※「研究開発費」等はZ評点の評価項目ではありません。
④ 社会性等(W評点)
- 【主な評価項目】:労働保険加入、健康診断の実施、防災協定の締結など
- 【ポイント】:社会的責任や法令遵守の姿勢が評価される
- 【対策】:建退共の加入、地域活動への参加、女性活躍推進の取組等が有効
評点アップのための具体的対策
1. 財務体質の強化(Y評点対策)
- 黒字経営を継続し、自己資本比率を高める
- 不要資産の売却や借入金の返済を進める
- 税理士・会計士と連携して財務戦略を立案
2. 技術力の向上(Z評点対策)
- 技術職員への資格取得支援(受験費用・報奨金)
- 若手技術者の育成制度を整備
- 技術者の定着率向上のための労務環境の整備
3. 社会性への取り組み(W評点対策)
- 社会保険や退職金制度の導入
- 地域防災訓練への参加、CSR活動の実施
- 法令遵守・ハラスメント防止の社内体制の整備
制度改正の動向とチェックポイント
経審制度は、建設業界の実情や社会的要請に応じて、国土交通省が適宜改正を行っています。例えば、女性技術者の評価加点や災害協定の見直しなどが実施されています。
最新情報の確認方法:
- 国土交通省公式サイト(https://www.mlit.go.jp)
- 各都道府県の建設業課の案内
- 行政書士・建設業コンサルタントによるニュースレター
特に制度改正により、評価項目や配点が変わることもあるため、常に最新の情報をチェックし、戦略を見直すことが重要です。
申請書類の準備と注意点
経審申請に必要な書類は多岐にわたり、以下のような準備が求められます。
- 決算報告書(直近事業年度)
- 完成工事高の実績資料
- 技術職員名簿および資格証
- 社会保険加入状況等を証明する書類
行政庁や都道府県ごとに提出先や様式が異なる場合があるため、事前確認は必須です。不備や虚偽があると審査が受理されないことや、建設業法違反で処分の対象となることもあります。
虚偽申請は厳禁!法的リスクも
経審申請において虚偽の記載をした場合、建設業法第50条等に基づき、以下のような処分が科されることがあります。
- 許可の取消
- 営業停止処分
- 入札参加資格の剥奪
また、企業の社会的信用が失墜し、取引先からの信頼も失う結果になりかねません。不明点がある場合は、行政庁や専門家に確認を取りながら、正確な記載を徹底しましょう。
まとめ:経審を経営改善のチャンスに変える
経審は、単なる入札資格審査ではなく、自社の経営状況や社会的責任、技術力を見直す好機です。結果を踏まえて自社の強み・弱みを把握し、次の経営戦略に活かしましょう。
✔ 評点は「見せ方」ではなく「中身」が問われます。
✔ 定期的な情報更新と制度改正のキャッチアップが重要です。
✔ 経審対策を、組織の体質改善や人材育成にもつなげましょう。
今こそ、経審を味方にして公共工事の安定受注と企業の成長を目指しましょう。