公共工事の入札を目指す建設業者にとって、避けて通れない「経営事項審査(経審)」。
本記事では、経審の制度概要から申請手続き、評点の構成、費用、そして評点アップのための対策まで、初心者にも分かりやすく丁寧に解説します。
目次
経営事項審査(経審)とは?建設業許可との違い
経営事項審査(通称「経審」)とは、建設業者が公共工事の入札に参加するために受けなければならない審査です。
- 建設業許可:建設業を営むために必要な許可
- 経営事項審査:公共工事に参入するために必要な「客観的な評価」
国や地方自治体などが発注する公共工事は、税金で行われるため、信頼性の高い建設業者を選定する必要があります。経審はこの選定のために、事業者の経営力・技術力・社会性などを点数化し、透明な指標として提供する制度です。
※ 経審を受けるには、あらかじめ建設業許可を取得していることが必須です。
経審の有効期限と審査基準日
- 審査基準日:申請者が任意に設定可能。一般的には直前の決算日。
- 有効期間:審査基準日から1年7ヶ月間
経審の点数は永続するものではなく、有効期間が設けられています。入札の際には、常に有効な点数を保持している必要があるため、更新時期を見逃さないように注意が必要です。
経審の仕組みと評点構成
経審の最終的なスコアは「総合評定値(P点)」として算出され、以下4項目の点数が合計されて構成されます。
評価項目 | 内容の概要 |
---|---|
経営規模評価(X) | 工事実績(完成工事高)や自己資本、労働者数など |
経営状況分析(Y) | 財務指標に基づいた安全性・収益性・効率性などの分析 |
技術力評価(Z) | 有資格者数や元請実績、技術職員配置状況など |
社会性評価(W) | 社会保険加入状況、防災協定、CCUS登録など社会貢献要素 |
これらを合算して、公共工事の発注者が客観的に評価できる「P点」が算出されます。
評価項目の詳しい解説
▶ 経営規模評価(X点)
- 直近2年の「完成工事高」
- 「自己資本額」や「平均元請完成工事高」「労働者数」などを総合評価
- 規模の大きさ=工事遂行能力の高さと評価される
▶ 経営状況分析(Y点)
- 登録経営状況分析機関にて評価
- 自己資本比率、売上高経常利益率、負債比率などの財務指標を基に分析
▶ 技術力評価(Z点)
- 技術職員の有資格者(1級建築士、施工管理技士など)の人数
- 元請としての施工実績(主任技術者の配置など)が重視される
▶ 社会性等評価(W点)
- 社会保険加入状況
- 防災協定の締結、建退共(建設業退職金共済)への加入状況
- CCUS(建設キャリアアップシステム)登録状況や若年者雇用実績も加点対象
経審の申請方法と手続きの流れ
経審の申請は大きく2段階に分かれます。
- 経営状況分析の申請(Y点)
登録経営状況分析機関に財務諸表を提出し、Y点の評価を受ける - 経営規模等評価申請(X・Z・W点)
Y点の結果通知書を添付して、都道府県(または国交省)へ申請
主な必要書類
- 経営状況分析申請書
- 財務諸表(直近3期)
- 工事経歴書
- 技術職員名簿
- 使用人数調書 など
経審の申請費用
経営状況分析の手数料
- 分析機関に支払う費用:一般的に5〜6万円程度(業者により異なる)
経営規模等評価の手数料
- 都道府県への申請手数料:1業種あたり1.3万円程度(法定額)
行政書士など専門家に依頼する場合
- 書類作成や手続き代行の報酬:5〜15万円程度が相場
- 自社の負担を軽減したい場合、実績ある専門家への依頼が有効です
評点アップの具体的対策
公共工事の入札で有利になるためには、総合評定値(P点)の底上げが不可欠です。
【1】完成工事高の継続的な積み上げ(X点対策)
- 評価対象は過去2期平均のため、急激な改善は困難
- 中長期的に営業・受注体制を強化し、工事実績を増やす努力が重要
【2】財務体質の健全化(Y点対策)
- 自己資本比率の向上、借入の削減、収益性の改善などがポイント
- 適正な会計処理と内部留保の増加を意識する
【3】技術者の育成と資格取得支援(Z点対策)
- 一級資格者の確保、主任技術者の配置実績を積み上げる
- 技術職員に対する資格取得支援制度(補助金・休暇制度)も有効
【4】社会性向上の取り組み(W点対策)
- 社会保険への加入は必須
- 防災協定や建退共加入、若者雇用、ISO取得なども積極的に活用
まとめ:経審は公共工事参入の“登竜門”
経審は、単なる事務手続きではなく、企業の健全性・技術力・信頼性を証明する「公開スコア」です。
制度を正しく理解し、日頃からの経営努力を積み重ねることで、公共工事という大きな市場に参入するチャンスが広がります。
今後の受注戦略を考えるうえでも、「経審を味方につける」ことは非常に大きな意味を持ちます。
ぜひ本記事を参考に、自社の状況を見直し、着実にステップアップしていきましょう。