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建設業許可における「誠実性」とは?条件や注意点をわかりやすく解説

建設業許可を取得・維持するためには、建設業法が定める複数の要件を満たす必要があります。その中でも、意外と誤解されやすいのが「誠実性」という要件です。
誠実性と聞くと、広く「真面目であること」「道徳的であること」といったイメージを持たれるかもしれません。しかし、建設業法における誠実性は、もっと具体的で法的に限定された意味を持っています。本記事では、その正しい定義と対象者、違反の例、そして申請時の注意点まで、初めての方にも分かりやすく解説します。

目次

法律上の「誠実性」の定義

誠実性は、建設業法第7条第3号に規定されている許可要件の一つです。条文では、

「請負契約の締結又は履行に関して、不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかでないこと」
とされています。

つまり、建設工事の契約を結ぶときや工事を行うときに、詐欺や横領といった不正行為、または契約内容に反する不誠実な行為を行うおそれがあると判断されないことが条件です。
この誠実性は、一般的な社会的評価や企業理念全般を審査するものではなく、あくまで契約の締結・履行という場面に焦点を当てた法的要件です。

審査の対象となる人物

誠実性は、会社全体に漠然と求められるものではなく、法律で定められた「対象者」に対して審査されます。
法人の場合は申請者本人に加えて、営業取引において重要な地位にある「役員等」が対象です。ここでいう「役員等」には、取締役や代表取締役が含まれます。監査役や執行役員は原則として対象外ですが、もし取締役会などから契約締結に関する具体的な権限を委譲されている場合は、個別に審査対象となることがあります。

さらに、建設業法施行令第3条で定められた「使用人」(支店長や営業所長など、営業所を統括する立場の人)も誠実性の対象者に含まれます。
一方で、現場代理人や主任技術者は、誠実性の直接的な審査対象ではありませんが、彼らの行動が不正や不誠実な行為に該当すれば、結果的に会社や役員等の責任が問われることがあります。

誠実性を欠くとされる典型的な行為

誠実性の審査では、次のような行為が典型例として問題視されます。例えば、契約時に虚偽の説明をして発注者を誤認させること、契約内容と異なる仕様で施工すること、または代金の不正請求や横領などが挙げられます。これらは「不正」または「不誠実な行為」とされ、許可取得や維持に重大な影響を与えます。

なお、「不当な価格設定」という表現は誤解されやすいのですが、単に見積金額が高い・低いという理由だけでは誠実性の欠如には当たりません。問題となるのは、談合、虚偽見積、著しく低い労務費での受注など、法令や公正取引のルールに反する場合です。

誠実性と欠格要件の違い

誠実性(第7条)と欠格要件(第8条)は似ているようで異なります。
誠実性は「許可を与えるかどうかの判断基準」の一つで、契約に関する不正や不誠実のおそれがあるかどうかを見ます。一方で、欠格要件は「一定の事由に該当すると、そもそも許可を受けられない」条件を定めたもので、破産手続開始決定を受けて復権していない場合や、特定の法律違反で刑罰を受けてから一定期間が経過していない場合などが該当します。

労働基準法違反なども欠格要件となる場合がありますが、全ての違反が対象ではありません。施行令に列挙された特定の規定に違反し、刑事罰を受けた場合など、法律で定められた条件を満たす必要があります。

誠実性が欠如するとどうなるか

申請段階で誠実性を欠くと判断されれば、許可は下りません。許可取得後に誠実性の欠如が発覚すれば、許可取消し処分の対象となります。
取消し後の再申請までの期間は一律ではなく、取消し理由によって異なります。例えば、欠格要件に該当する事由による取消しの場合は、取消しの日から5年間は再申請が認められないケースが典型です。

誠実性を証明するための実務ポイント

通常の新規申請や更新では、所定の様式に基づいて過去の行政処分歴などを申告するだけで足ります。特別な書類や日々の研修記録などを必ず提出する必要はありません。
ただし、過去に建設業法違反やその他の行政処分を受けた場合には、改善策や再発防止策を記載した資料を添付し、審査官に誠意を示すことが望ましいです。

また、日常的に契約条件や施工内容を遵守し、内部通報制度やコンプライアンス研修を行うなど、社内での誠実性向上の取り組みを継続していくことが、結果として申請時の信頼にもつながります。

まとめ|建設業許可における「誠実性」とは?

建設業許可における「誠実性」は、一般的な道徳観ではなく、建設工事の契約締結・履行に関して不正や不誠実なおそれがないことを意味します。対象となるのは申請者本人と営業取引上重要な地位にある役員等、そして令3条使用人です。
許可の取得や維持を円滑に進めるためには、契約内容を正確に説明し、約束どおりに履行すること、そして不正の芽を摘む社内体制を整えることが欠かせません。誠実性を守ることは、単に許可要件を満たすだけでなく、長期的な顧客との信頼関係を築くための基盤でもあります。

監修者プロフィール

西條 朋美(にしじょう ともみ)
行政書士
長野県行政書士会所属
MACKコンサルタンツグループ 小林行政書士事務所

制度を正しく理解し、事業者の皆さまが安心して事業を継続できるように——。そのお手伝いをするのが行政書士の役目です。建なびでは、読者に寄り添った解説を心がけています。ぜひご活用ください。

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