土木工事業の建設業許可は、道路や河川、橋梁といった社会インフラをつくり守るために必要な重要な許可です。これを取得することで、公共工事をはじめとする大規模工事への参入が可能になり、企業の信用力も高まります。本記事では、法律に基づく最新情報をもとに、初めての方でも理解しやすいように、許可の条件や申請手続き、工事の範囲までを丁寧に解説します。
土木工事業許可を取得するメリット
土木工事業とは?
法律上の土木工事業(いわゆる「土木一式工事」)とは、複数の専門工事を総合的に企画・指導・調整し、土木工作物を完成させる工事を指します。例えば、道路や河川、橋梁、トンネル、ダムといった公共性の高い施設が代表的です。これらは単に一つの作業だけを行うのではなく、複数の工種を組み合わせ、全体を管理・統括して完成させることが特徴です。
似た名称や作業内容を持つ工事業もあります。例えば、「とび・土工・コンクリート工事業」はくい打ちや土工事、コンクリート打設といった専門工事に特化し、「舗装工事業」は道路や駐車場などの舗装施工を専門に行います。「しゅんせつ工事業」は河川や港湾の底ざらいが主な業務で、「鋼構造物工事業」は橋梁や鉄骨構造物の組立・架設に特化しています。
もし自社が元請として複数の専門工事を一括管理し、完成までの全工程を取りまとめる役割を担うのであれば、「土木工事業」の許可が必要です。一方で、特定の専門工事だけを単独で請け負う場合は、その専門工事に対応する業種の許可を取得します。実際には、受注する工事の内容や契約形態によって複数業種の許可が必要になるケースもあるため、自社の施工内容を整理し、必要な許可を判断することが重要です。
許可区分と営業所の条件
建設業許可には「大臣許可」と「知事許可」があります。この区分は事業戦略で自由に選べるものではなく、営業所の配置によって自動的に決まります。複数の都道府県に営業所がある場合は大臣許可、1つの都道府県内だけに営業所がある場合は知事許可となります。どちらの許可でも、実際に受注できる工事の場所は全国に及びます。
さらに、許可は「一般建設業」と「特定建設業」に分かれます。2025年2月の法改正により、元請として1件の工事で下請契約の合計額が5,000万円以上(建築一式工事の場合は8,000万円以上)になる場合は特定建設業の許可が必要です。これ未満であれば一般建設業の許可で足ります。
許可が不要な軽微工事の範囲
すべての工事で許可が必要なわけではありません。軽微な建設工事に該当する場合は、許可を持たなくても施工できます。具体的には、建築一式工事では税込1,500万円未満または木造住宅で延べ面積が150平方メートル未満、その他の建設工事では税込500万円未満が基準です。この金額には材料費も含まれます。また、複数の契約であっても、実質的に一体の工事であれば合算して判定されます。
許可取得のための主な要件
経営体制の要件
2020年10月の法改正により、従来の「経営業務の管理責任者」を特定する制度は廃止されました。現在は、建設業の経営に関して相応の経験と権限を有する常勤の役員や管理職などを配置し、適切に経営業務を管理できる体制を整えることが求められます。経験年数や職務内容によって複数の認定ルートがあり、役員としての経験5年以上、営業所長としての経験などが代表例です。
専任技術者
営業所ごとに、工事の品質や安全を確保できる専任技術者を置く必要があります。土木工事業の場合、代表的な資格は一級土木施工管理技士です。公共工事や大規模工事を視野に入れるなら、まずはこの取得を目指すのが王道です。
資格取得には実務経験が必要で、土木系の学科を卒業している場合は最短で3年、学歴がない場合でも10年以上の実務経験があれば受験可能です。二級土木施工管理技士でも一般建設業の許可要件は満たせますが、将来的に特定建設業や大型案件を狙うなら一級取得が有利です。
もし資格がなくても、大学・専門学校で土木関連学科を修了して一定年数の実務経験を積む、または他業種の施工管理資格と経験を組み合わせるなど、いくつかのルートがあります。自分の経歴と目標に合わせて、最短ルートを逆算して準備を進めましょう。
社会保険加入
適用事業所に該当する全ての営業所で、健康保険、厚生年金保険、雇用保険に加入していることが許可の要件となります。
財産的基礎
一般建設業では、①自己資本が500万円以上、②500万円以上の資金調達能力がある、③過去5年間に継続して許可を受けていた、のいずれかを満たす必要があります。特定建設業の場合は、資本金や自己資本、流動比率など、より厳しい財務基準があります。
土木工事業許可取得の準備ポイント」
申請の流れ
事前準備
まずは、会社の登記事項証明書、経営経験や技術資格を証明する書類、財務関係書類など、必要な書類をそろえます。申請書は都道府県庁またはオンラインで入手できます。書類の記載は正確に行い、不備がないようにします。
申請と審査
申請書と添付書類を営業所所在地の都道府県(大臣許可は地方整備局)に提出します。手数料は許可の区分によって異なります。標準的な審査期間は、知事許可で25〜45日程度、大臣許可で約4か月です。審査中に補足資料の提出を求められることもありますので、迅速に対応できるよう準備しましょう。
許可証の受領
審査に通過すると許可証が交付されます。これを受けてから、許可業種として正式に営業できます。
許可取得後の注意点
建設業許可には有効期限があり、5年ごとに更新が必要です。多くの自治体では有効期限の3か月前から受付を開始し、遅くとも満了日の30日前までの提出が推奨されていますが、運用は自治体によって異なるため、必ず事前に確認しましょう。
また、会社の代表者、役員、商号、所在地、専任技術者などに変更があった場合は、事由ごとに定められた期限内に変更届を提出しなければなりません。例えば、経営体制や専任技術者の変更は2週間以内、役員や所在地の変更は30日以内、決算変更届は事業年度終了後4か月以内といった具合です。期限を過ぎると罰則や許可取消のリスクがあります。
まとめ|建設業許可(土木工事業)取得の完全ガイド
土木工事業の建設業許可は、公共工事や大規模案件への扉を開く大きな鍵です。しかし、制度や要件は細かく、最新の法改正にも対応する必要があります。まずは、自社の営業所の状況や工事規模を整理し、一般・特定、知事・大臣のどちらの許可が必要かを確認しましょう。そのうえで、経営体制、専任技術者、社会保険加入、財産的基礎といった要件を一つずつ満たす準備を進めます。
もし現時点で要件をすべて満たしていなくても、資格取得や経験年数の積み上げなど、ゴールまでの道筋を描くことができます。早めに計画を立て、無理のないスケジュールで進めることが成功の近道です。
「いつか取る」ではなく、「今から準備を始める」ことが、数年後の事業の可能性を大きく広げます。必要に応じて行政書士などの専門家に相談し、最短ルートでの許可取得を実現しましょう。今日の一歩が、未来の大きな受注につながります。